阿寒摩周国立公園を味わいつくすVol.3

屈斜路カルデラ外輪山の最高峰、藻琴山に挑む!?

冬の藻琴山登山

date:2024.2.7 location:藻琴山

冬山”はじめの一歩”は藻琴山で。知らなきゃ損損

「冬の藻琴山でスノーシュー!」と、センター長からの提案があったものの、冬の藻琴山も、スノーシューを使った登山も初めて…。当日の天候は曇りで、風はほぼなし。あったかインナー+シャツ+インナーダウン+冬用アウターを着込み、装備は万全!と安心していたら、カメラマン「寒かった時に足すものは持ってる?」筆者「え、暑かったら脱ごうかなと思って…」カメラマン「足すものも持ってこなきゃダメじゃん!」筆者(冷や汗)。 登山(特に冬山)は「これでOK」と思った装備にプラスアルファすることが基本なのだ。スノーシューは持参したがストックはなく、同行スタッフより借りることに…。何から何まですみません。ストックの使い方もよく知らないし、なくてもいいような気もするけど、お守りで!楽しむ気持ちだけは人一倍持って、いざスタート!

今回は〈片瀬ガイド事務所〉片瀬志誠さんにガイドしてもらいながら、藻琴キャンプ場〜ハイランド小清水〜藻琴山頂上へ。実は私、夏に人生初ソロ登山した際に、登山口近くの駐車場に行き着くこともままならず、センター長に電話で確認するほどの方向音痴…。約40年ぶりの藻琴山、初の冬山、心強い同行者に絶対服従の姿勢でついていく。

林の中にあるキャンプ場のログハウス調バンガローは雪に囲まれ、まるでヨーロッパのような景色。それを横目に登山道入口へと進む。ビジターセンターの周りでよく見ているアカエゾマツはなく、ここではクロエゾマツやダケカンバが目に留まる。白い雪を幹にまとった木々を眺めながら進んでいると「北風が雪を叩きつけるので、木の北側にだけ雪がついているんですよ」と片瀬さんが教えてくれる。歩みを止めて振り返ると、なるほど、今までは“白”だった木々が全て幹の色“茶”になっている。

次に片瀬さんが指さした方向を見ると、枝にとろろ昆布のようなものがまとわりついている。「サルオガセがついている木は、数年後に見ると枯れているんです。弱っているからサルオガセが付くのか、サルオガセが付くから枯れるのか、そこは謎です」。その後に出合うサルオガセ付きの木を観察すると、確かに枯死している…。う〜ん、勉強になる!

サルオガセ

周回コースとハイランド小清水ルートとの合流地点付近にさしかかったとき、小さな雪の塊から成る一直線を発見。「これはキツネの足跡ですね」と片瀬さん。雪が凹んだ足跡はいつも見ているけれど、足跡が飛び出しているってどういうこと!?「足跡が踏み固められて周りの軽い雪が風で飛ばされると、こんな風になるんです。」

ハイランド小清水までの道路には風紋ができて、なんともアーティスティック。終始感嘆のため息を漏らしつつハイランド小清水に到着!曇り空のため湖は霞んで見えるけど、雄大さを感じるには十分だった。

ハイランド小清水から見る屈斜路湖

通常、片瀬さんのガイドはここで下山するのだが、今回は特別にスカイライン遊歩道コースで頂上まで行くことになった。今のところ、寒さも疲労も感じず、アドレナリンが出ているのかも(笑)無限に歩けそうな気すらしているが、お腹が空いてしまって「早く頂上でご飯を食べたい」という一心で足早に突き進む。

周りの景色を眺めながら片瀬さんは「降雪量が少ないから樹氷が蔵王のアイスモンスターみたいになりきらないのか、暖かいから溶けてしまうのか」とつぶやく。「風が強く雪が降った日の翌日に来ると、巨大な樹氷が見られるかもしれないよ」とのこと。

気分はプリンセス。でもなめたらアカン

頂上まであと少し…。積雪が少なくところどころハイマツが顔を覗かせていたので、踏まないようにと跨ごうしたその瞬間…。私の体は大きく傾き、ふかふかのコース外へ!!!もがけどもがけど体は沈むばかり。「助けて〜!」と叫ぶも、バディのはずの同行者たちは笑うばかりで手を貸してくれない(普段は大変助けていただいています)。すると落ち着き払った片瀬さんが「ストックを2本まとめて両手で持って、地面に押しつけてごらん」と教えてくれる。「ストック!?手を貸してくれよ!」と内心思いつつも実践してみると、なんとなんとさっきまで沈むばかりだった私の体は、いとも容易く持ち上がっていく…。いや〜、ソロ山行でストックなかったら脱出できなかったな(冷汗)。出発前に「ストックいらないんじゃないか」と思ったことを激しく反省。脱出法を教えてくれた片瀬さんは後光が差しているように見えました。本当にありがとう。

コケた!

気を取り直して歩き出すと陽が差し始め、雪にダイヤモンドダストが混ざったようなキラキラが私たちをお出迎え。「ホントキレイ〜」というワードしか出てこない一行。雪庇(せっぴ)に注意しながら、屏風岩に到着。恐竜の背中のようなイカツいシルエットを、吹きつけた雪がさらに際立たせていた。キラキラが私たちを囲み、あまりの美しさに空腹を忘れ、しばし眺める。

藻琴山から屈斜路湖を望む

屏風岩から一旦下って、あとは頂上を目指すのみ!尾根沿いを歩くと、さっきは感じなかった風が吹き付けてくる。最後の登りには柔らかい雪が積もり、3歩進んで2歩下がるようなズルッズルッと滑る感じ。 足元に注意して登り、いきなり視界が開けたな〜と思うとそこは頂上だった!「やった〜!」プリンセスの背景を思わせるようなキラキラwith屈斜路湖!こんな展開、誰も予想してなかった!もっと晴れますようにとの願いを込めて、頂上南側の風が凌げる場所でランチ!温かいスープとハーブティーを飲みながら眺める絶景…。

藻琴山山頂まであとわずか

往きは良い良い、帰りは…?アドベンチャーワールドへようこそ

しかし歩いていないと体温はどんどん奪われていくようで、そろそろこの絶景ともお別れ。バディの後ろについて下っていく。3歩進んで2歩下がる坂ではブレーキが効かず、「きゃーっ!」。野球の盗塁さながらのスライディングをしてしまった。すんでのところでバディを巻き込まずに停止。ほっと胸を撫で下ろす。

その後は往きとは別ルートで。片瀬さんより「どうします?尾根を行くか、谷を行くか」との相談。谷のコースには誰の足跡もついていない…。バディ二人は尾根の方に視線を送っているが、初心者の私は、道なき道を選択!一歩踏み出すとそこは、ふっかふかのパウダースノー!全身を使って足を持ち上げなければならないほど。バディはカメラ機材も背負っているため、踏み込んだ足がなかなか抜けない。埋没者(=バディ)をヘルプしながら下る。慣れると、スキーのようにスーッと滑りながら下れるようにもなってきた。雲の上を歩いているような浮遊感♪いけるいける!と調子に乗ったその瞬間、足は埋まり上半身だけは前に出て、今度はヘッドスライディング!こんなお騒がせ登山、みんなもしているの?それとも私だけ!?もう申し訳ないとか通り越して、めちゃくちゃ楽しいんですが!

なんとか谷を下り切り、ダケカンバに囲まれた登山道入口近くまできた。湿った重たい雪のためか、木々がシダレヤナギのように枝先を垂れている中をくぐるように進む、これも初めての体験。テンション上がりっぱなしで気持ちは元気なのに、足首に力が入らなくなってきて…。生まれたての仔馬のように歩く。

見覚えのあるバンガローが視界に入り、戻ってきたことを実感。無事帰還した安堵感と心地よい疲労感。9時半に出発した山行、現在14時半。あっという間の5時間だった。

帰りに藻琴展望駐車公園に寄ると、湖面は黄金色に輝いていた!瞬間瞬間で表情を変えるこの景色、見飽きることがないなあ。

藻琴山山頂

片瀬さんに厚く厚くお礼を申し上げて、今回の登山は終了。幹のオセロもサルオガセの謎も、キツネの飛び出す足跡も、今まで出合っていたのだろうけど、知らないと見過ごしてしまうんだなあと実感した。片瀬さんが丁寧に教えてくれたことを、今度は私がみんなに伝える番だ。

片瀬志誠(かたせしのぶ)
静岡県出身。2010年に初めて道東の地に足を踏み入れ、雄大な自然に魅せられて居住を決意。
弟子屈町内の旅行会社で環境教育やガイド活動に携わり、2018年<片瀬自然ガイド事務所>を立ち上げる。
ありのままの身近な自然を伝えたいという思いで、自然ガイドと写真撮影を続けている。

片瀬自然ガイド事務所
住所:北海道川上郡弟子屈町字美留和1-716

TEL:015-484-2400

営業時間:8:00~17:00

お休み:不定休
URL:URL:https://shinobukatase.com

Writer

CHIEKO
2児の母。2023年4月より川湯ビジターセンターにて憧れの自然解説員に。
ハンターである父に付いて野山を駆け回る生活をしていた。人生の9割を弟子屈町に捧げていながら、その魅力に気づいておらず、知るごとに感動する日々。勉強や経験を重ね、その魅力を発信できる人になる道を模索中。モットーは「仏のように生きる!」。

Photographer

SHIN
川湯ビジターセンター写真係。写真を通して阿寒摩周国立公園の自然の素晴らしさをお伝えしたい!と願って今日もカメラを片手に公園内へ。

Share this Post